ある日のこと、SSWの方による研修を受けました。
SSWというのは、スクールソーシャルワーカーのことです。
教室の中だけでは見えにくい家庭環境や福祉的な背景も含めて、子どもたちの状況を考え、学校に助言をしてくれる方です。
今回の研修では、校内支援ルームの在り方について考える時間がありました。
校内支援ルームというのは、教室に入りにくい子や、学校に来ること自体がしんどい子が、安心して過ごすための場所です。
学校によって名前は違いますが、今では多くの学校で設置されるようになっています。
研修の中で、近くの先生同士で、校内支援ルームについて思っていることを話し合い、そのあと発表する時間がありました。
そこで出てきた意見を聞きながら、ぼく自身もいろいろ考えさせられました。
教室に戻すのか、休ませるのか
ある先生から、こんな意見が出ました。
「この子は教室に戻れそうだけれど、校内支援ルームへ行かせると、そのまま教室へ戻れなくなるのではないか」
この見定めが難しいという話でした。
これは、現場にいるとよくわかります。
少ししんどそうだから休ませたほうがいいのか。
それとも、今なら教室に戻れるから背中を押したほうがいいのか。
休ませることで回復する子もいます。
一方で、安心できる場所が居心地よくなりすぎて、教室へ戻るきっかけを失う子もいます。
支援する側は、その判断を何度も迫られます。
しかも、正解は毎回同じではありません。
同じ子でも、昨日は教室へ戻れたのに、今日は難しいことがあります。
授業内容、人間関係、体調、家庭での出来事によっても変わります。
だから、「この子は行ける子」「この子は行けない子」と決めつけることはできません。
その日の姿を見ながら、何が必要なのかを考えるしかありません。
以前のぼくなら、「甘え」と見ていたかもしれません
以前のぼくなら、子どもが校内支援ルームへ行きたいと言ったときに、
「少し甘えているのではないか」
「授業から逃げたいだけではないか」
そんなふうに考えていたかもしれません。
でも、昨年度と今年度、校内支援ルームや不登校支援に関わるなかで、子どもたちの背景を知る機会が増えました。
家庭では、ほとんど自分の話ができない子がいます。
家族の顔色を見ながら過ごしている子もいます。
教室では、ずっと周囲に気をつかっている子もいます。
そうした背景を知ると、校内支援ルームで楽しそうに話している姿の見え方が変わります。
以前なら、「元気そうだから教室へ戻れるのではないか」と思っていたでしょう。
でも今は、
「ここでようやく安心して話せているのかもしれない」
「家では話せない分まで、今ここで話しているのかもしれない」
そんなふうに考えるようになりました。
表面だけを見れば、遊んでいるように見えることがあります。
ただ、その時間が、その子にとって心を回復させる大事な時間かもしれません。
すぐに教室へ戻そうとせず、その子が安心を取り戻す時間として見ることも必要なのだと思います。
「不登校になってから使う場所」でいいのか
研修のなかで、もう一つ印象に残った意見がありました。
ある先生が、
「校内支援ルームが、不登校になってから使う場所になってしまっている」
「もっと元気な子も使える場所にしたほうがいいのではないか」
と話していました。
この意見は、ぼくのなかにはなかった視点でした。
たしかに、完全に教室へ行けなくなってから使うのではなく、その前の段階で少し休める場所があれば、状態が深刻になる前に立て直せる子もいるかもしれません。
今日は少し気分が重い。
友達とのことでしんどい。
授業中、気持ちが落ち着かない。
そんなときに、短い時間だけ校内支援ルームで休む。
そして、気持ちを整えてから教室へ戻る。
そういう使い方ができれば、校内支援ルームは、もっと予防的な場所になるでしょう。
誰でも来られる場所にすれば解決するのか
ただし、全児童に開放して、
「いつでも誰でも来ていいですよ」
とするのは、簡単ではありません。
誰でも自由に来られるようになると、校内支援ルームがただの遊び場になる可能性があります。
人が増えて、にぎやかになれば、静かに過ごしたい子が落ち着けなくなります。
人の声や物音が苦手な子にとっては、安心できる場所ではなくなってしまいます。
せっかく教室から離れて休みに来たのに、別の場所でも疲れてしまう。
それでは、校内支援ルームの役割が崩れてしまいます。
だから、「開くか、閉じるか」という二択ではないのだと思います。
利用する時間を分ける。
静かに過ごす場所と、話してもいい場所を分ける。
授業中は、担任や担当者と相談した子が利用する。
休み時間には、短い時間だけ広く使えるようにする。
利用人数を決める。
使ったあとに、自分の状態を少し振り返る。
そうやって、使い方を工夫する必要があります。
大切なのは、「そこで何を取り戻すのか」です
校内支援ルームを考えるとき、
「何時間いていいのか」
「誰が使っていいのか」
「教室へ戻すべきか」
そうしたルールの話になりがちです。
もちろん、ルールは必要です。
でも、それだけでは足りません。
一番大切なのは、その子が校内支援ルームで何を取り戻そうとしているのかを見ることです。
安心なのか。
休息なのか。
誰かとの会話なのか。
自分の気持ちを整理する時間なのか。
教室へ戻るための準備なのか。
必要なものは、子どもによって違います。
同じように楽しそうに見えても、その意味は同じではありません。
ただ遊んでいるように見えて、実は緊張から解放されているのかもしれません。
たくさん話しているように見えて、やっと安心して言葉が出ているのかもしれません。
大人が表面だけで判断すると、その子に必要な時間を奪ってしまうことがあります。
校内支援ルームは、教室へ戻すためだけの場所ではありません
校内支援ルームは、教室復帰だけを目的にする場所ではないと思います。
もちろん、教室へ戻れるようになることは、一つの大切な目標です。
でも、教室へ戻せたら支援が成功で、戻れなければ失敗というわけではありません。
まず学校に来られた。
大人と話せた。
少し笑えた。
自分の気持ちを言葉にできた。
掃除の時間だけ教室へ行けた。
そうした小さな変化も、立派な前進です。
校内支援ルームは、その子が自分の状態を整え、次の一歩を選ぶための場所です。
大人の都合で教室へ戻す場所でもありません。
ただ何となく居続けるだけの場所でもありません。
その間で、その子にとって必要な支援を考え続ける場所です。
誰のための場所なのか
今回の研修を通して、校内支援ルームについて改めて考えました。
不登校の子だけの場所なのか。
教室に入りにくい子のための場所なのか。
元気な子も使える場所にするのか。
簡単に答えを出すことはできません。
ただ、一つ言えるのは、大人の使いやすさのためにある場所ではないということです。
校内支援ルームは、子どもが安心を取り戻すための場所です。
そのためには、広く開くことが必要な場合もあります。
逆に、静かな環境を守るために、利用を調整することも必要です。
大切なのは、誰でも同じように使えることではありません。
その子が、そのとき必要としている使い方ができることです。
校内支援ルームは、誰のための場所なのか。
その答えは、「目の前の子どものため」なのだと思います。
だからこそ、決まった形に当てはめるのではなく、その子が今、何を必要としているのかを見続けたいです。









