亀先生、領土問題を語りすぎて脱水しかける
今日は、久しぶりに社会の授業をしました。
かめ先生は、基本的に亀の話をしているときがいちばん元気です。
甲羅の話。
冬眠の話。
エサを食べるときの謎の首の伸び方の話。
そういう話なら、いくらでもできます。
でも今日は、亀ではありませんでした。
お題は、領土問題でした。
尖閣諸島。
竹島。
北方領土。
小学生にとっては、なかなか渋いラインナップです。
大人でも、急に出されたら少し背筋が伸びるテーマです。
大型テレビに画像を写しながら、ぼくは話し始めました。
「ここはな、日本にとって大事な場所なんやで」
最初は、わりと落ち着いていたと思います。
たぶんです。
少なくとも、開始3分くらいまでは落ち着いていました。
でも、話しているうちに、だんだん熱が入ってきます。
なぜその島が大事なのか。
どうして周りの国がそこを欲しがるのか。
地下資源があること。
漁業の問題があること。
国と国との間には、きれいごとだけでは済まない現実があること。
もちろん、そこに住む人たちや、相手の国の人たちを雑に悪く言うようなことはしません。
それは違います。
でも、日本人として知っておかなければいけないことはあるでしょう。
そんな話をしていたら、気づけばぼくは黒板の前で、ほぼ演説をしていました。
教室の温度が上がったのか。
自分の体温が上がったのか。
国家という概念が燃え上がったのか。
よくわかりません。
ただ、ひとつだけ確かなことがあります。
ぼくは汗だくでした。
本当に汗だくでした。
額から汗が落ちます。
首から汗が流れます。
背中はもう、社会科資料集の「湿度の高い地域」のページみたいになっています。
子どもたちは、最初は領土問題を見ていました。
しかし途中から、明らかにぼくの汗を見ていました。
黒板の前に、熱帯雨林が出現していました。
ぼくのシャツだけ、年間降水量が異常値を叩き出していました。
そして、ひとりが言いました。
「先生、なんでそんなに汗かいてるん?」
そこです。
領土問題の授業中に、小学生から出た素朴な疑問。
「なぜ先生は、こんなに汗をかいているのか」
これはもはや、社会ではありません。
理科です。
人体の不思議です。
人体の水分は、どこまで外に出るのか。
小学生の目は、そこに釘付けでした。
ぼくは答えました。
「今日はちょっと熱く語りすぎたわ」
教室が笑いました。
ぼくも笑いました。
領土問題で汗だくになった先生と、それを見て笑う子どもたち。
なかなか平和な風景です。
いや、テーマは平和ではないのですが、教室は平和でした。
授業が終わりました。
ぼくとしては、少ししゃべりすぎたかなと思っていました。
30分は一人語りしてました。
子どもたちは退屈していなかったかな。
情報量が多すぎたかな。
汗の量が多すぎたかな。
そんなことを考えていたら、ひとりの女の子が近づいてきました。
そして、こう言いました。
「先生、今日の社会の授業、面白かった」
思わず聞き返しました。
「ほんま?」
「先生、ずっとしゃべってただけやで」
すると、その子は言いました。
「うん。でも、めっちゃ面白かった」
これです。
授業というのは、不思議です。
きれいなスライドがあるから面白いわけではありません。
完璧な板書があるから伝わるわけでもありません。
もちろん、それも大事です。
でも、最後に子どもたちに届くのは、
「この先生、本気でしゃべっているな」
という温度なのかもしれません。
今日は、それを汗で証明してしまいました。
もはや言葉ではありません。
発汗です。
教育とは、発汗なのかもしれません。
いや、たぶん違います。
でも、少なくとも今日の教室では、ぼくの汗が少しだけ社会科を面白くしたようです。
次の社会の授業も楽しみにしている、と言ってくれた子もいました。
次の社会の授業のときには、クラスを冷房でガンガンにしてくれるそうです。
ありがたい話です。
どうやら、ぼくの社会の授業は、内容より先に空調管理の対象になったようです。
領土問題を学ぶ前に、まず教室の温度を守らなければいけません。
北方領土より先に、かめ先生の体温問題です。
尖閣諸島より先に、汗の領海侵犯です。
竹島より先に、シャツの湿地帯化です。
教育とは、発汗や。
ただ、次回からはタオルを持っていこうと思います。
領土問題は大事です。
でも、先生の水分問題も大事です。
今日のかめ先生は、黒板の前で少しだけ学びました。
国を守る前に、まず自分の水分を守らなければいけません。







