子どもの頃、イシガメを飼っていた。
ツルツルした黒い甲羅。きれいな顔。
ミドリガメとは全然ちがう、渋さがあった。
あれが「日本の亀」だと、子ども心に思っていた。なんだか誇らしかった。
お腹の甲羅の模様でイシガメかクサガメかを見分けていた。数を数えて奇数がクサガメ、偶数がイシガメとか言ってたような。そんなことを夢中でやっていた。
あの頃、川には普通にイシガメがいた。
大人になって、ふと川を見た。
亀はいる。たくさんいる。
でも、全部ミドリガメだ。
イシガメがいない。クサガメもほとんどいない。
気づかないうちに、川の亀が別の生き物になっていた。
なぜ消えたのか
ニホンイシガメは、世界で日本にしか生息しない固有種だ。
それが今、準絶滅危惧種に指定されている。
原因は一つじゃない。川のコンクリート護岸で産卵場所が消えた。アライグマに食われた。そして、かつてペットとして流行ったミドリガメ(ミシシッピアカミミガメ)を「飼えなくなった」と川に放した人間がいた。
放したミドリガメが繁殖し、イシガメの餌と居場所を奪った。
アカミミガメに罪はない。全部、人間の話だ。
晴れた日に川で亀が日向ぼっこしてるのを見て、「のどかだな」と思う人は多い。
でもその亀、ほぼ確実に外来種だ。
「亀はいる」という安心感が、「日本の亀が消えている」という現実を見えにくくしている。
イシガメには、日本のおくゆかしさがある。
派手じゃない。主張しない。
黒くて、ツルツルで、静かにそこにいる。
それが好きだった。
がんばれ、イシガメ。
まだ諦めてない人たちが、全国で保護活動を続けている。
あの渋い顔を、かっこいいフォルムを、次の世代にも見せてやってほしい。



